
1月下旬に大阪で用事があり、金沢経由の乗り換えで出かけてみた。東京乗り換えに比べると1時間くらい長くなるが、いくらか安く、しかも見慣れた東京経由の東海道新幹線に比べ、金沢まで延伸した北陸新幹線+金沢からの特急サンダーバードで冬の日本海をかすめて西へ向かう初めてのルートは、格段に魅力的に感じられた。
糸魚川で日本海に出て、金沢駅で加賀料理屋さんのお弁当を素早く仕入れ、もぐもぐしながら富山を経て琵琶湖沿いに京都へ登り、そこからは多少見覚えのあるルートで大阪へ。雪の量も野山の起伏の感じも、集落の様子も、進むごとに微妙に変化していくので、まったく飽きない。
大阪は、竣工した友人宅の施主検査のお手伝いという用事だった。
最初に連絡があったのは去年の春で、施工業者が決まっているいわゆる建築条件付きの土地の購入を決めたので、設計をしてほしいということだった。聞いてみると、建売のような設計施工の工務店の販売形式で、自由な間取りに対応するが、建物としての標準仕様は決まっていて土地建物セットでの価格だという。そうすると私が入る余地はないように思えたし、また仮に間取りだけ私が関わると、工務店の段取りが混乱して半端な結果になるのではという心配もあり、そう伝えて断ろうとした。
けれども、友人にとってご家族の大きな節目を迎えた事情と想いがあっての今回の家づくりに、昔から知る私にぜひ関わってほしいのだというお話で(ありがたいことです)、それでは挑戦、ということで私が基本設計としてプランを作って友人に渡し、友人が工務店とその後の設計や施工の打ち合わせを行い、私が背後から(?)それを手伝うという形になった。工務店さんにとってみれば、ちょっと厄介な背後の存在だったかもしれません。
友人とやり取りして、2案目くらいで決定した基本プランだったが、それを受けて工務店さんが設計を進める中、既製の建材や標準サイズのサッシを組み合わせるという仕様のしばり、また、3階建て木造の構造計画のなかで、当然ながらあちこち変更が入った。普段なら直接自分で行う変更も、間接的なのでどこまでが実際可能なのか把握しづらい。また、内外の仕上げも私が普段選ぶようなものとはだいぶ違う既製品ラインナップから選んでいく。その都度、色のアドバイスや工務店からあがってきた図面のチェックなどはするのだが、これで出来上がる建物に対して、自分が関わる意味がどう表れるのか、正直なところ読めないまま出来る限りのことをする感じだった。
既製品を組み立てるタイプの工務店さんだったので、着工後はこちらがたまげるようなスピードで竣工して、それで1月の検査に伺ったのでした。気がつく限りのチェックをして、工務店さんが普段とはだいぶ勝手が違うであろうプランを無事完成させてくれてよかったなと思う一方で、自分が考えたプランが、普段はあまり使わないような既製品建材の組み合わせで仕上がった状態がなんとも不思議な感覚で、まだ今回の計画の意味がわかったようなわからないような気持ちのまま帰ってきた。
それからしばらくたって3月の半ば、友人から1週間前くらいに引越しが終わったよと電話ともらった。その声がこれまでになく元気なトーンで、3階の窓から階段を通じて2階のダイニングによく光が入ること、愛猫たち(3匹のゴージャスな猫を飼っていらっしゃいます)がスケルトンの階段を満喫しているし、どこにいるかすぐ分かるのが便利なこと、キッチンに立つ旦那様の姿を眺めながらくつろげることなどを話してくれた。
いろいろ制限がありながらの計画だったけれど、友人と工務店だけで進めていれば、そういう話をしてもらえる空間構成にならなかったのは確実。その骨格となるプランを作れたことに、私が関わる意味があったのかも、とようやく一安心できてじわじわと嬉しくなった。吟味した仕上げや、考え抜いた納まりも大事かもしれないけれど、プランの果たす役割も大きいなとあらためて実感しました。見たこともないプランを作る必要はないし作れる気もしないし、デザイン的には自分は普通のボキャブラリーしか持ち合わせていないと思うけれど、そのご家族ならではの、しかも今までより良い感じで長く暮らしていける骨太なプランを知恵を絞って作っていこうと思います。
今回の計画。やりとりの中で、友人は持病があって寝たり起きたりになる時期もあるので、狭くなってもダイニングキッチンと主寝室とトイレは全部2階に置きたいのだということが分かってきた。私からすると、それが日常の一部ならば、寝室とダイニングがどちらかの雰囲気に影響されてしまうのは避けたいと感じられ、他方で寝ている人と起きている人が完全に分断されないようにもしたいと思った。また、密集した街中の宅地で主な採光は3階と前面道路側のみという環境だが、主要な生活スペースの2階の奥側がいつも暗いというのも避けたい。そこで中央に階段室を配置して、ダイニングと主寝室が引き戸とスケルトンの階段でゆるく区切られ(あるいはつながり)、3階の明るさを2階奥のダイニングに少しでも取り込むような計画にした。
竣工検査のあとに、運転上手の友人、噂に聞く荒々しいなにわナンバーの中をかっこいい車ですいすいと道頓堀まで連れて行ってくれた。義理のお母様のリアル大阪弁(ほんとに「せやせや」って言うんだ!)の解説を受けつつごちそうになった本場のたこ焼き、ふぐ料理、道頓堀観光、楽しくおいしかったです。