水と泥

田んぼ
田んぼに足を踏み入れたものだけが味わえるアングルです。

ひさしぶりに佐久で田の草取りに参加した。

柔らかくて靴下のようにぴったり足にフィットする田んぼ用の長靴を履いて、のしのしと畦道から田んぼの水の中に進水。

泥に足がめりこんで、かかとを取られそうになり、腕を振り回しながらバランスをとって目標の畝まで進む。久しぶりで忘れていたけど、そういえばこういう感覚だったなあと思いながら、泥から足を抜きやすくするべく、上手な体重の移動の仕方を模索する。

隣の人が目印に立てた竹ざおを引き抜き、自分が担当する畝を数えて、その先に挿し直す。私は2列をまたいで立って、両手を伸ばすとしてせいぜい4列か。さっそく上半身を低くして、ゴム手袋をはめた手を水に沈め、稲の株の周りの表土をかきまわすと、生えかけた雑草が根っこごと抜けて水面に浮かんでくる。毎シーズン3回行われる草取りの3回目なので、だいぶ成長して稲の背を追い抜きそうな雑草もあり、それらは根元を握って引き抜き、腰につけたカゴに放り込む。

田の草取り
それぞれのペースでちゃぷちゃぷと進んでいきます。

上からの日差しに加え、水面の照り返しもばかにならないので、麦わら帽子とサングラスの下は手ぬぐいでカウボーイ状に覆った覆面スタイルだ。最初に声を出して挨拶するまでは、私だと分かってもらえない。

4列の畝を進み切ったら、一度畔にあがって腰のカゴにたまった草を出して伸びをして、折り返す。各々が持続可能な自分のペースで進むし、場所ごとに草の出方が違うので、それによっても進み方が速くなったり遅くなったりする。それでもたまたま近くに他の人がいる時は、このエリアはこの草が大きくなってますねえなどとぽつぽつ会話したりもする。

田の草取り
左下半分が掻き回して濁った水、右上半分がまだ掻き回していなくて澄んでいる水。稲の足元に雑草の芽が見える。

水面を間近に見ながら進むと、カエルやオタマジャクシ、アメンボはもちろん、いろいろな色のトンボが稲にとまっていたり、背中に卵を背負ったコオイムシが水中を進んでいたり、大きな蜘蛛が水面をてくてく歩いていたり、おそらく無農薬の水田ならではと思われる複雑な生態系の一部を文字通り目の前にすることになる。

太陽が出ると日光に照らされる側の服の表面がじりじり焼け、雲がさっと流れて太陽を隠すと直射日光の圧力が消え、その雲を流した風が田んぼの水面を渡ってきてたまった熱を取ってくれる。薄い田んぼ長靴を通して、場所ごとにぬるかったり冷たかったりする水温の違いが感じられ、また、泥の表面のあたたかさと奥の方のひんやりした感じも伝わってくる。

カエル
鮮やかな黄緑のカエルが気持ちよさそうにぷかーと浮いてます。

子供の頃、長靴であえて水たまりに足を入れてみて水の感触をおもしろがったりしたけれど、大人になって堂々と水だけでなく泥の中まで足で踏み込んで、さらに腕もつっこんで泥水を掻き回して歩く機会はそうそうない。取り掛かるまではまあまあ気が重いのだが、田んぼに入って始めてしまうと、結構無心になってぱちゃぱちゃやって、まあ体はきついのだが進んだ分だけ、また草をやっつけた分だけの達成感もある。

 

そして翌日と翌々日、大腿部から腹部周りにかけてのみしみしとした激しい筋肉痛で朝はうめきながら起き上がることになり、ぎくしゃくと妙な歩き方をしながら、ふふ、お腹の筋肉にも太ももの筋肉にも相当効いてるな、ちょっと絞れたかな、とほくそ笑むというおまけがついているのです。

田の草取り
田の草取りの遠景。こちらは2回目の草取りの日の写真です。