ダイヤモンドダスト

だめもとで撮りましたが、左上の虹っぽい光や地面の上に一応キラキラが写ったかも!クリックすると拡大できます。
だめもとで撮りましたが、左上の虹っぽい光や地面の上に一応キラキラが写ったかも!クリックすると拡大できます。

前の晩にうっすら雪が降った2月5日の朝は快晴で、ゴミ出しで外に出ると、空気は「かつーん」と音がなりそうに透明に冷えていた。

駐車場を歩きながら目をあげると、のぼってきた朝日のなか、透明なはずの空気のなかそこらじゅうにキラキラと光るものが見えた。たぶんダイヤモンドダスト。自分で見るのはたぶん初めて。大気中の水蒸気が凍ったところに光があたって光る現象だ。真っ青な空をバックに空気がキラキラする様子は、とにかくきれいで、静かに感動し、だめもとで携帯のカメラでシャッターを切ってみた。

両親は十数年前に埼玉から佐久へ移住したのだが、そこで母が初めてダイヤモンドダストを見たときも相当な感動ぶりで、テンション高い報告を受けたのを覚えている。母は作家の南木佳士さんの文章と、その代表作のひとつ「ダイヤモンドダスト」という小説が大好きで、「主人公がコタツで昔の恋人のことを考えて泣くところがじつにいいのよ」なんて昔から私に話したりしていて(子どもが聞いても何のことやらさっぱりでしたが)、言葉だけで知っていたダイヤモンドダストを自分でリアルに見る日が来るなんて!と感動しきりだった。その後も冬に1度見られるかどうかのダイヤモンドダストに出会うたびに喜んでいる。

南木佳士さんは佐久総合病院でお医者さんをしながら執筆していることでも良く知られていて、そもそも両親が佐久に偶然気に入った土地を見つけて引っ越すことになったときも、あの佐久だしね、というプラスイメージが多少あったようだ。

別の角度にて。キラキラがはっきりわからなくても、この特別な朝の空気感、伝わる気がするのですがいかがでしょうか。
別の角度にて。キラキラがはっきりわからなくても、この特別な朝の空気感、伝わる気がするのですがいかがでしょうか。

そんな両親が1年ほど前に佐久総合病院で毎年の定期健康診断を受けた。結果の説明は夫婦そろって診察室に入って聞くことになり、各々があれこれ気になることなど説明を受けた。

父は以前から健康診断のたびに脈拍の不安定さや少なさを指摘されていて、今回も軽く引っかかり、この様子は頻脈の逆の「徐脈」で、いずれペースメーカーを使うようになる可能性が高いけれど、今すぐどうこうではないから、数ヶ月おきに様子見のチェックをしましょう、ただ私は年度末で退職するので、次の先生に引き継いでおきますね、と説明を受けた。父が「先生はお辞めになったあとどこかで開業されるのですか?」と尋ねると、「いえ、そうではありません」というお返事だった。先生の説明がわかりやすくて頼もしかったので、開業されるならお世話になろうかなと思って尋ねたたらしい。

2月9日。溶けかけて凍った雪や寒さをものともせず悠然とした足取りでアパートの駐車場を横切る貫禄猫。
2月9日。溶けかけて凍った雪や寒さをものともせず悠然とした足取りでアパートの駐車場を横切る貫禄猫。

母は、車に乗っているときなど首がうなずくようにカクカクしているよと娘(私です)に言われるのだけれど、何か病気でしょうかと(娘にお医者に聞けとうるさく言われているので)質問した。すると先生は、「それは『しんせん』と言って、年をとって筋力が衰え気味でなることも」と話しながら近くのメモ用紙に「震顫」というやたら画数の多い難しい漢字をペンでさらさらと書いたので、母はそれを見てこの先生すごいなあと感心したそうだ。

2月18日、小諸の棚田と浅間山。雪はあるものの、光と空の色が春に近づいた。
2月18日、小諸の棚田と浅間山。雪はあるものの、光と空の色が春に近づいた。

それからしばらく経ったあと、新聞か何かで、作家の南木佳士さんがこの春に長年勤めた佐久総合病院を定年退職されて、これからは執筆に専念するという情報を父が目にした。

はっとして母と二人でネットをチェックしたら南木佳士さんの本名やお写真が出てきて、、、、!あのときの先生!!

ってなったのよ、難しい字もさらさらと書くわけよね〜と笑うしかない母から報告を受け、私を含め山田家は静かな興奮と感動に包まれたのでした。

そして父は「あの先生」に1年前に見立てていただいた道筋に沿った経過観察を経て、本人も周囲も納得しながらペースメーカー導入を決め、この2月1日に無事植え込み手術をして脈拍倍増、生活上の注意事項はいろいろあるものの元気に日常生活に復帰した。

長年のご経験にもとづいた落ち着いた診断はもちろんのこと、「それにしてもあの南木佳士さんだったのよね〜」「メモ用紙もらっておけばよかったよね〜」と家族で含み笑いできる出会いとエピソードをありがとうございます。

そんな2月の現場にて。最寒期の旧軽井沢の厳しい条件の工事スペースで、みなさん丁寧な仕事をしてくださっています。
そんな2月の現場にて。最寒期の旧軽井沢の厳しい条件の工事スペースで、みなさん丁寧な仕事をしてくださっています。